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四行小説・妖怪運動会

1.まず紹介
 夜泣きジジイは子泣きジジイとは違う。
 夜だけ妖怪「夜泣きジジイ」へと変身する、ヒーロータイプのジジイである。
 昼間はごくごく普通の好々爺だ。お約束のように、変身しているときの記憶は昼の彼には残らない。
 夜泣き青年だったころは、受験勉強などにとても差し支えた体質だ。

2、夜泣きジジイはこだわり派
「子泣きじいいとは違うの?」と聞くと、決まって「ワシは夜泣きジジイじゃ!」と返される。
 夜に変身する理由は、月の魔力のせいだと知った人が、
「オオカミ男みたいですね」なんて口を滑らすと「ワシは夜泣きじいいじゃ!」と返される。
 かれは名前にこだわる。

3、名前だけでなく
 名前にこだわる理由は彼曰く、「名前を持つ事が、自分を持つ事なのだ」とか。
「アイデンティティって奴ですね」
「自己同一性じゃ!!」
 かれは日本語にもこだわる。

4、ライバルもいる
 「浜辺の砂掛けババア」という妖怪をライバル視、いや好敵手視している。
 子泣きジジイが好敵手というのだとありきたりだろうと、夜泣きジジイは語る。
 砂掛けババアが好敵手でもありきたりなような気がするのは、気付いてはいけない。
 指摘すると、言い返せず夜泣きされてしまうかもしれないからだ。

5.理由
 なぜ「海辺の砂掛けババア」なのか。
 普通の砂掛けババアとはちがい、浜辺の砂を投げつけてくる。
 つまり、サンゴや貝殻の砕けたカルシウムなどが成分である。
 カルシウムがどう足掻いても和訳できないのが、好敵手たる由縁だ。

6、突然ですが
 妖怪的、夜の交遊会が行なわれることになった。
 老人会の健歩大会のようなもとの思えばよい。
 妖怪的でなくてはならないので、ちょっと捻くれて「螺旋階段レース」というものになった。
 健歩大会に比べて、とても老人に厳しい大会である。

7、開会式
 ルールは簡単。螺旋階段を一番上まで上り、スタンプを押してもらい、戻ってくる。
 勿論、空を飛べる妖怪は飛んでもいいし、そこらへんは非常に大らかな規則となっている。
 ふつうの健歩会にくらべ、道が曲がっているから飽きも少ないという効果も予想される。
 説明ばかりですみません。でも開会式ですから。

8、年寄りだって
 一位を狙うつもりはないが、せめて好敵手には勝ちたいと夜泣きジジイは思う。
 なにせ螺旋階段競争、なのである。
 誰かと競争しない事には、彼の中で日本語的な矛盾が生ずるわけだ。
 余談だが、夜泣きジジイが「レース」の正式な和訳を「競走」だと知らないのは、彼にとって良かった事だろう。

9、時間は経過する。
 「競争」の結果はともかく、次の日事件は起こった。
 人間に戻った昼の好好爺は、ぎっくり腰&筋肉痛で大変なことになったのだ。
 彼自身には記憶がなく、なんとも迷惑な体質である。
 本当に、「レース」の意味を曲解していて良かったね。

10、夫人は心配そうだ
「だいじょうぶ? まったく年甲斐もなく無理するから……」
「はて? ワシはそんな運動をした憶えがないんじゃが……ぼけたかのう」
 笑う妻が昨日のレースに参加していた妖怪の一人である事を、好好爺は知らない。
 ちなみに彼らの子供は、「夜の浜辺の砂泣き中年」である。


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