タイムマシンが完成したのが何時なのかは誰も分からない。なぜなら、タイムマシンが出来てからは時の概念なんてほとんど意味がなくなったからだ。 僕と彼女は丘のてっぺんに腰掛け、星を見ている。 交わすのはくだらない言葉。僕が喋り、彼女がうなずく。 星が綺麗だね。うん。 従兄弟が子供を生んだよ。そっか。 ディズニーランド行きたいね。かもね。 地面が冷たいね。わかるよ。 明日から会えないね。そうだね。 僕はなんでだろう。もどかしくて、腰掛けてた岩に、持った石を打ちつける。 なんでだろう。いつの間にか彼女も同じことをしだした。カツカツカツカツ。 すべての物質の元となる素粒子の動きが、先端科学によって完全に把握された。自然な状態下で素粒子はどのような法則で動くのか。それまでのどのような運動によって現在の素粒子の状態になったのか。現在の状態から、10年後にはどのような状態になっているか。 それらの完全なシュミュレートと、人工的な素粒子の操作によって、擬似的な時間旅行は完成する。 昨日に行きたければ、今の世界の素粒子を解析し、素粒子の運動法則の逆算から昨日の素粒子の状態を再現する。タイムマシン以外を除いて。 時間を巻き戻すのではなく、タイムマシンの外にある状態をどんどんと「昔」に変化させていくのが、タイムマシンの概念だ。カヌーのように、素粒子をかきわけ時の川をさかのぼっていく。 「明日だね」 電話口の向こうで、彼女がうなずく気配がした。 「最後に山に行かない? ぶらぶらと」 特にすることは無いのだけど、こうでもしないと素っ気無い彼女は会ってくれないだろう。 ただ会いたいと、僕は思う。 彼女はどう思っているのだろう。 会いたいとは言わない彼女。会おうとは言わない彼女。いうのは僕の役目だった。 「嫌かな」 「別に。いいよ」 嬉しくて受けたのか、嫌だけど受けたのか分からない返答。 でも僕は、そんな不満を抱えながら喜んでしまう。 彼女と居たいから。 明日から、僕は開発されたタイムマシンの試乗をしなければならい。それは何故そう決まったのか分からないし、何時決まったのかも分からない。昨日か、或いは明日に決まったのかもしれない。 このタイムマシンは原理上、未来を変える。今日から昨日に行けば、昨日には存在しなかった今日の僕が出現することになり、存在しなかった要素は素粒子の運動に影響をあ立てて、本来の今日とは違う明日が昨日にやってくる。難しい話だ。 カツカツカツカツ。僕は石を岩に打ちつける。 星が綺麗だね。うん。 明日は天気だろうね。だね。 僕が行く過去は、どんな天気だろう。さあ。 明日っていう場所には僕はいないね。そうだね。 さびしい? ……んー。 カツカツカツカツ。彼女も石を岩に打ちつける。 僕はタイムマシンに乗る。発進すれば、外の世界は逆に動く。タイムマシン作動のレバーを引いた教授がレバーを上げるのが見えた。太陽がいつもと逆周りに動く。人は後ろ向きに歩く。タイムマシンに乗る僕が、後ろ向きに歩いていってドアから入っていった光景が見えた。僕はタイムマシンの中で髪の毛を落としてみた。外の世界とは別に、髪の毛はゆっくりと下に落ちていく。外の世界では、落ちるときは上に、だ。タイムマシンに乗り込む前の僕と、今ここにいる僕は違う人間なのだろうかとか。色々考える。明日に僕はいないのだろうか。何をしに僕はタイムマシンに乗っているのであろうか。彼女は結局なんのために僕といたのであろうか。 カツカツカツカツ。音が聞こえた。 気がつけば、タイムマシンの外は昨日の夜になっていた。 カツカツカツカツ。これは昨日聞いた音だろうか。不思議な現象だと僕は思う。幻聴だろうか。 目をつぶれば、彼女と一緒に見た星が見えたような気がした。座るシートが、冷たい石の感触に感じた。幻覚かもしれない。 目を開けば、もう一週間前の昼で、あの夜のことはまだ起こっていない場所と時。 あの時、朝まで彼女と岩に座り、僕は話していた。 朝、岩を見たとき、石で穿たれた穴は、彼女が作ったものの方が深かった。 僕はまた目をつぶる。 どこに行くかは、知らない。 |
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