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人面相

一日目、夜

 右手首周りの手の甲の親指の下あたりに、人面相が出来た。
 最初は虫刺されかと思っていたのだけど、見る見る大きくなって半日ぐらいで人の顔になった。
 窪んだ目と、ちょっと高くなった鼻と、中に血管が見える赤い空洞の口。お面のような性別不明ののっぺりした顔がなかなか気色悪い。
 顔の形になってから半日ほどして喋り始めた。第一声は、
「お前、変な顔だな」
 潰してやろうかと思った。


二日目、朝

 やっぱり夢ではなく、起きたら人面相は右手首の裏の同じ所いた。
「寝相悪すぎ」
 しかもやっぱり喋ってた。
 朝食の時、以外にも家族で驚いたのは弟だけだった。
 父が「俺の田舎じゃたまに見かけたな」と言うと、母も「そう言われるとそうね」と頷いた。
 てっきり腰を抜かすほど驚くかと思っていたのに、ちょっと残念だ。
 弟も順応力は高いみたいだった。


二日目、昼

 人面相は病気の一種らしいので病院へ行った。
 皮膚科を扱っているところが近くになくて、少し遠出しなければならなかった。
「おれを殺すきかー」
 右手首の声が五月蝿いけども、気にしない。
 医者に見てもらうと、
「まあ気にする事ないよ。珍しいけど前例が無いわけじゃないし。すぐ治るから」
 よかったあ、と胸をなでおろす。
 が、
「そう言って患者を安心させるのも医者の役目なんだよ」
 人面相が器用に顔を歪めて笑いながらいった。
 デコピン制裁。「アダッ」


二日目、夜

 医者に処方された塗り薬を、人面相の上に塗る。
「噛み付いてやるー」
「噛んだら潰す」
 大人しく塗られるままにされてくれた。意外と小心者らしい。


三日目、昼

 休日だったので起きるのが遅かった。
「おまえ、マジで寝相悪い」
 右手首の甲を返すと、すこし青あざを作った人面相がいた。
 そして思い出して、困った。今日は外出の予定があったのに。こいつがいたら、外に出れないじゃないか。
 長袖を着れば何とか隠せるか。外を見た。青天真っ盛り。地上を太陽さんがギラギラ睨んでいる。
 溜め息が出た


三日目、夕方

 図書館にて。気まずい雰囲気で、友人と向かい合っていた。
 人面相が途中でつまらない冗談を言うまでは、いい空気で乗り切っていたのに。
「なにそれ」
「俺は人面相」
「病気の一種だって。五月蝿い以外には無害だから平気だよ」
「うわ、無視された」
 図書館では静かにしなければいけないと思います。


三日目、夜

 医者から貰ったクリーム状の薬を塗った。
「こうやって、少しずつ俺の命は削られていくんだ」
 人面相が悲しそうに言う。思わず申し訳ないような気がしてくる。
「ぬぁ〜んちゃって!!」
 皮膚が見えなくなるくらい薬を圧塗りしてやった。


四日目、早朝

 朝起きた。というかやかましい声に起こされた。
 声の源は、右手首。
「たた、たいへんだ大変だ!!」
 時計を見るみたいに右腕を見ると、人面相の鼻がなくなっていた。
「ノッペラ坊みたいになっちまった」
 思わず吹き出すと、人面相は器用にも顔をゆがめて文句をいう。すねた言い草が面白くてまた笑ってしまった。
「俺どうなるのかな」
 突然真剣な声で人面相が聞いてきたが、
「どのうち消えちゃうんじゃない?」
 何も考えず反射的にそんなことを言ってしまった。
 それきり黙ってしまった人面相を見て、ちょっと考えの足りない言葉だったなと後悔してしまった。


四日目、朝

 目が覚めたら右手首がかゆかった。見てみると人面相の腫れが赤っぽい。
「何かの嫌がらせ?」
 だけれど人面相は何も言わずに、無表情の不気味な顔を動かさないままだった。
 不信に思い、左手で人面相を突付いてみる。だが反応が無い。


四日目、昼

 医者に行って、人面相が話さなくなった旨を伝えた。
「ああ、よかったですね。治り始めてますよ」


五日目、夜

 右の手首、手の甲の親指の付け根辺りにある腫れは、段々とひいて来たようだった。
 昨日の朝から人面相がしゃべる事は一度も無い。
「おーい聞いてるかー」
 声をかけてみても思ったとおり。反応はない。
 人面相は病気だというから治る事は悪くないと思うし、珍しい症状なので二度と掛る事はないだろう。
 完治の傾向は嬉しいが、人面相との最後の会話で彼を不機嫌にさせたままで終わった事が、少し面白くなかった。


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