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ロビンクックの英雄譚

 おや坊や、転んでしまったのかい? どれどれ血は出ていないじゃないか。うん? ほら泣かないなかない。男の子だろう。ロビンクックのように強くなるんだ。
 うん?
 おや坊やはあのロビンクックを知らない? なんて坊やは人生を損しているんだろう。うん、いい機会だ。私が話してあげよう。ロビンクックのことを。
 ロビンクックは海の男で、愉快で勇ましく正義があり仲間思いの男だったが、少々抜けたところがあるのが難のある男だった。例えばロビンクックが始めて川から海へとでたとき、彼は海の水が飲めないことを忘れていて真水をまったく用意していなかった。もう少し仲間がそれに気づくのが遅ければ、危うくこの物語が早くももう終わったしまっていたところだ。
 ロビンクックは武術に優れていたが、学問はからっきしだった。そのことを密かに恥じていたロビンクックはとある港町の仲間たちからはぐれている時に嘘をついた。「俺は医者だ!」。ロビンクックは外見だけを見れば、かなかなに聡明そうな人物だった。それを信じた一人の町のものがロビンクックを訪ねてくる。
「先生、朝に起きたときから頭がいたいのです」
「それはよくない。明日からは朝ベッドから降りるときには足から降りてください」
 と、そんな様子だったのでロビンクックの嘘はすぐに見破られる。
「あそこの先生はヤブ医者どころか医者でもないな」
「医者でないとするとなんだろう。詐欺師にしてはのんびりしすぎているし、金持ちが暇つぶしに遊んでいるにしては、優雅じゃない」
「ああいう人はきっと、昔は船乗りだったに違いないさ」
 とそんな会話が交わされる。ばれたことに気がつかないのはロビンクック当人くらいだ。
 それでもロビンクックが彼らから愛されたのは、その正義漢な性格からだろう。
 ある日、この場所に初めて訪ねて来た少女がロビンクックに言った。
「先生。階段で転んでしまって」
 と、少女に出血はなかったものの、顔や体中を激しく打ってできた痣をロビンクックに診せたのだ。これは酷いとロビンクックは、少女に消毒薬を塗る。少女はたちまち「打撲を消毒なんて藪な医者」と帰ってしまった。しかしロビンクックがしたことはこれだけでは終わらない。武芸に優れはロビンクックは少女の痣が誰かに殴られたことに密かに気がついた。そして犯人の暴漢を突き止めると、たちまちのうちに懲らしめてしまったのだ。ロビンクックはその功績を誰にも自慢もせず、当然のことのように振舞った。
 そんな間の抜けていて勇敢で優しいロビンクックが、船から下りた街に留まっている理由がなんなのか。それはロビンクックが街の娘に恋をしたからだった。
 酒場で見初めた踊り子に、ロビンクックは首っ丈。野蛮なことから手を引いて、無理やりインテリぶっているのもそのせいかもしれない。彼は毎日のように憧れの彼女に贈り物をする。石鹸、人形、リボン。でも今まで船乗りの粗暴な世界にいたロビンクックだ。贈り物はいつも失敗。三回に一度は平手打ちを彼女にくらってしまう始末。
 ロビンクックがそんなことをしながら街にいて、半年ほどたった日。大通りを通る人たちは、罵声とともにロビンクックが酒場から追い出されるのを目撃した。あの抜けたロビンクックのことだ。きっとまたいらない事を言い酒場の娘を激怒させたのだろう。彼の頬が今日も赤いのは、恋をしているからではないだろう。半年も続けばロビンクックも諦めが入る。さすがの彼もとぼとぼと道を行く。そこに「あの」と声がかかる。
 ロビンクックが顔を上げると、いつか見た少女が立っていた。あのときのように顔に痣がないから、彼女を思い出すのに少し時間が掛かってしまったようだが。
「人から聞いたの。あなたがしてくれたことを」
 と少女は言った。少女の頬が赤いのは決して、平手を食らったからではないだろう。

 と、おやおやもうこんな時間だ。坊や、泣き止んだようだけど、まだひざは痛むかい?
 そうだ君にお守りを上げよう。血は出ていないようだから、効果はないようだけど。もしかしたら気づかないうちに君を救ってくれるかもしれないよ。私がそうだったようにね。
 ほら、消毒液だ。


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