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宇宙眠り姫・後編


 ユーリーが夢から目を覚ますと、リビングのソファにいて、白い天井が見えた。マットとの交代の時間までまだあるのに起きてしまったようだ。
 夢の最後は、ユーリーが自分で作った妄想だった。あのときあの場所で話した相手は間違いなく女王本人だった。
 そういえばフーユが女王の下から逃げた後、新しい影武者は作られたのだろうか。女王は作らせない断言したが、周りの者のなかに「いてもいなくてもいいなら、いてもらおう」と考える者がいないわけが無い。女王は絶対に失ってはならないのだ。実権を持っていない女王だったが、そのカリスマ性は絶対的だった。もしも「四人目」が作られていたとしたら、アレほどまでに影武者を案じた女王はどれだけやりきれない思いだろうか。
 ただ、フーユが逃げられたのには女王の手心があったからなのは間違いないだろう。そう思いつけば、少しは気が楽になる。その程度の発言権があるのならば、四人目を作らせなかったかもしれない。そしてもっと楽観的に考えれば、仮にフーユの事が知られていても、女王の意見によって追っ手も差し向けられていないかもしれない。
 交代の時間が来るまでもう一眠りしようかと考え、思いなおす。あんな夢を見た後では、次はどんな夢を見るか分からないと思った。戦争ので人を殺した感触。恋人を失ったときの悲しみ。国を出てから一年間の腐っていた頃。戦争に関して言えば、良いことよりも悪い思い出の方が印象強い。
 第一倉庫にでも行って整理でもしようかと考える。時間をもてあましたときには倉庫に行って何があるのか漁るのも面白いかもしれないが、寝起きで体がだるいことに気がついた。あそこまで歩く気力は無い。小説でも読もう。パソコンの中に、まだ読んでいない作品が沢山あったはずだ。パソコンの電源を立ち上げ、『狐屋代理店:ガム剥ぎ取り事件』という題名のファイルをクリックする。
「ユーリー。暇そうだね」
「そうだなぁ」
 カムルがリビングに入ってきたので開いたファイルを閉じた。子供と一緒に読む類の話でなかったからだ。立ち上がって目覚まし用のコーヒーを用意をする。
「もうすぐ小惑星帯の半分を抜けるよ。マットは、もう国の追っ手は来てないと思って良いって言ってた」
「まあ追っ手につかまったら素直に投降して、荷物検査受けてっていうコースだろうなあ」
 見つかっていないことが前提でユーリーたちは船を出している。マットとユーリーがいま警戒していることも、万が一、億が一の不運に備えているだけのことだ。
 ユーリーは別のテキストファイルを開く。『全冷凍睡眠と人工冬眠』。もう四回ほど読み返した文章だ。人類が宇宙進出をするようになってもっとも研究が進んだ技術の一つが、冷凍保存の技術だという。
「うわぁ、難しそうな本読んでるね。SFちっく!」
「サイエンスではあるが、フィクションじゃねーよ」
「僕は知性の電子化とかのほうが興味あるなぁ」
 子供にしては難しいことに興味を持っている。カムルも暇つぶしに何かの小説を読んだのだろう。
「それはフィクションだな。でも記憶の電子化だったら簡単だぜ。生まれたときから毎日日記をつければいい」
 ザザとリビングに音が鳴り、アナウンスが入った。マットの声が流れる。
『カムル。船長を起せ』
「起きてるぞ。どうした」
 ユーリーがマットの声に答えた。回線をつなげば操縦室と船内のほとんどの場所で会話が出来る。
『レーダーが宇宙船の陰を捉えた。数は一つ。大きさは小型の母艦クラスだ。近づいてくる』
 母艦クラスと聞いてユーリーは渋い顔をする。艦内に戦闘機程度の大きさの船をいくつか収納して長距離移動できる程度の大きさということだ。
「でかいな。軍属か?」
『どうだろう。向うからのコンタクトはまだ入ってない』
「すぐそっちに行く」
 ユーリーはコーヒーの残りを飲み干した。

 軍隊の索敵レーダーの性能は、民間船が所持するものよりもずっと範囲が広い。軍属の船ならばユーリーの船があちらを認識するよりも前に何らかの勧告をしてくるだろう。しかし民間で母艦クラスの船を持っているというのも、なかなか特殊だ。維持費の面で見て、民間が持つには額がバカにならないのだ。
「距離は」
 操縦室に入って、ユーリーがまず聞いたのはそれだった。メインスクリーンの大画面に黒っぽい外見の宇宙船が映し出されている。背景の黒い宇宙に溶け込んでいる。視覚で見つけ出すのに苦労しただろう。
「おおよそ千キロ」
 その距離は近い。この船のレーダーは、本来なら二千キロ範囲の探索感度を持っているはずだ。
「あの船から信号は出ていない」
「ああ、お前の言うところの怪しい船という奴だな」
 やれやれとユーリーは肩をすくめた。スクリーンに大きく写る船は、どう見ても軍属の船ではないとユーリーは判断する。或いは、あえてそういう外見を装った軍艦なのかもしれないが。
 モニターも何も見ずに、マットが報告を続ける。
「速度差は向うがプラス時速一.三キロ。単純計算だと十二分四十八秒後に衝突するな」
「暗算速いな。で、どう思うよ」
「信号が無いことも、軍艦に見えない外見も、まるで奇襲を狙っている傭兵の行動だな。正規の軍が民間船することにしては品が無いような気がする」
 ユーリーが笑う。
「品が無い、か。面白い言い回しだな」
 だがマットの意見には賛成できた。こちらが真っ当な船であることを主張しているのだ。民間船に比べてパワーもスピードも圧倒的な装備を持つ軍隊が、『品の無い』やり方を選ぶの不自然ではある。
「或いは、なり振り構わないくらいに、あちらが必死なのか」
 ユーリーは言いながら、もう一つ可能性があることに気がつく。思いついた想像にどれほど妥当性があるかを思案して黙っていると、マットが「それか」と口を開いた。これから冗談みたいなことを言うぞ、というような表情だ。
 こいつも自分と同じ事を考えてるなと、ユーリーはぴんとくる。同時に考えを口にした。
「宇宙海賊」
 言ってから二人で笑いを吹きだす。
「いやいやそれはちょっと無いだろ。あんなでかい母艦をもった宇宙海賊なんて、かっこよすぎだろ。アニメの話かよ」
「それもそうだ。すこし楽観的になりすぎたな」
 ピピピと電子音がして、外部から通信が入ったことを知らせた。すかさずマットが回線を開く。スキンヘッドの厳つい男が画面に映った。
『突然で悪い。これから貴艦を徴収する』
 マットは押し黙り、画面の男の顔を見つめた。
「まるで海賊だな」
『平たく言えばそういうことだ』
 真面目に返事をされて、ユーリーと顔を合わす。お互いにぽかんと見つめあうと、
「海賊だ……ぶ、ブハハハハ!」
 ユーリーが苦しそうに身をかがめて笑った。
 マットは何も言わなかったが、顔を伏せて肩は明らかに震えている。
 軍艦であったならば、助かる道は無かっただろう。だが本当にごろつきならばもしかしたら。そんな風に二人は思ったのだ。
 スキンヘッドの男は眉をひそめた。
『どう思おうが結構だが、今後の自分達の待遇を憂うなら、そのふざけた態度はお勧めしないな』
 はーぁと、ユーリーが大きな溜息をついて横隔膜を鎮めた。
「いや、すまん。ランデブーまであと八分くらいか? 話し合っていいかな」
『二分やろう』
 一方的に通信がきれた。向うは、明らかに自分のほうに利があると分かっている態度だ。
「どうする船長。今の時点で速度差が時速四千キロ。逃げるのは無理だが」
「つっても、下手につかまるのは人命に掛かる」
 ユーリーはフーユのことを考えた。彼女のことを考えるのならば、しかるべき解凍施設に一刻も早く連れて行かなければならない。
「俺の経験から言えば、あのサイズの母艦には、積んでても戦闘機が十機までだ。母艦自体の武装は見る限りじゃあ中距離レールガンが三門。ほかにもこまごまとした武装がついているかもしれない。まあ中距離、短距離の制圧戦に特化したタイプだろうな」
「対して、こちらは戦闘機も砲門もない平和の使者のごとし輸送艦だ。物理的な対抗力では勝てる気がしないな。電脳戦は?」
 ユーリーは軽く首を振る。電脳兵器は使いようによっては物理兵器よりも恐ろしい。他の船の操作を乗っ取り行動不能にするどころか、腕の立つものならば艦の生命維持装置を切ってしまうことすら可能だ。その危険性により、民間人がおいそれと手に出来るものではない。
「あったとしても、俺もお前も使えないだろう。対電脳防御は完璧なつもりだけどな」
 にやりと笑った。
「付け入る隙はある。向うはきっと、俺達のことをただの民間船だと思っている。そしてだ……」
 わかるだろ? ユーリーが秘密話をするときのように声を潜めた。
「お互いにもともと、物理的な対抗が専門分野だしな?」
「ユーリー。おまえ、本当は荒事が好きだろう」
 再び電子音が鳴り、通信要求がなされる。マットが回線を開けた。
『話はまとまったか』
 先ほどと同じ男が画面に現れる。ごほんとユーリーが咳払いをして、答る。
「了解した。抵抗しなければ危害は無いんだな?」
『そのつもりだ』
 あまり信用のならない言葉だと思ったが、ユーリーはしたり顔で頷く。
 さてさて。どう話を誘導しようか。こちらに武器が無く、向うは武器を持つ。こういう場合に相手を打ち負かそうとするなら?
 簡単な話だ。相手の武器を奪えばいい。
 こんな緊急の危機が訪れた場合は、強引にことを運ぶのが一番いいというのが、ユーリーの持論の一つだった。知恵と勇気をふりしぼれは他にいい手が思いつくかもしれないが、あいにく考える時間は無い。
 相手の考えているプランはどういったものだろうか考える。向うが母艦だといっても、こちらの船もそれなりの大きさがある。この船が格納されることは無いはずだ。
 であるならば敵はこちらの船とドッキングして、勝手が出来ないよう動きを封じるだろう。しかる後に彼らの都合のいい場所まで誘導され、強奪される。奪われるのが荷物だけか、船もとられるのか、命まで持っていかれるかは不明。ユーリーが海賊ならば、船の酸素や食料を余分に消費する人間を生かしておく理由なんて思いつかないが。
『まず、発信をとめてもらう』
 スキンヘッドの男が命令を出した。
 それはそうだろう。この命令からどんな可能性が引き出されるか。クラッキングによってこちらの船を掌握できるのならばとうにしているだろうから、そこまでの技術はないのだと見ていいかもしれない。或いは命令してやらせて、それをする手間を省きたいだけかもしれないが。
 マットが「どうする」という視線を向けていたので、ユーリーは頷いた。マットが信号発信を停止させる操作をする。
『乗員は何人だ』
「あと一人いる」
 ユーリーは答えた。こういう質問はすぐに答えなければ疑われる。油断を誘う為に舐められたいのならば、下手な疑いは持たれない方がいい。
『そいつも画面の前に連れてこい』
「わかった。俺が連れてくる」
 操作室はマットにまかせ、ユーリーは外に出た。リビングではカムルが備え付きのモニターを見ている。これは操作室のモニターと連動していた。
「状況は分かってるな?」
「う、うん……」
 不安そうに頷くカムルを、ユーリーはほほえましく思った。肩が震えている。この子供は自分達、戦場で生きてきた人間とは違う普通の子供だ。
「大丈夫だ。まかせろ。来い」
 それだけ言うと、ユーリーは私物倉庫に走った。

 マットはスキンヘッドに言われるまま、機体の操作をする。速度を少し上げ、進行方向に若干の修正を加え、その他設定に微妙な変更が加わる。きっと全てが、向うに都合のいいようにされているのだろう。今の設定だと、海賊船とのランデブーは二分四十秒後。操作をしながらマットの中で暗算が行われていた。ユーリーがどんな作戦を立てているか分からないが、間に合うのだろうか。
 操作室のドアが開き、ユーリーが入ってきた。「待たせた」と小さく彼が言う。
 その後ろから続いて入ってきたカムルに、マットは目を見開いた。カメラの角度的に、マットの表情はスキンヘッドには悟られなかっただろう。
 短髪だったカムルは長髪のかつらを被り、女物の服を着ていた。スカート! そんなものがそういえば何故か倉庫にあったなと、マットは思い出す。
 画面の向うで『ふうん』とスキンヘッドが行ったのが聞こえた。マットにもその気持ちは分かる。カムルの女装姿はなかなか見せられる姿だった。カメラ越しではまず男だとは気がつかないだろう。どこか不安そうな振る舞いも、そそられるかもしれない。気のせいかもしれないが、カメラの向うからザワザワと何人かがざわめくのが聞こえたようだ。
 マットはなるほどと、苦笑する。宇宙は暇との戦いだ。海賊にとってもそうだろう。暇を潰すには娯楽が必要だ。
 餌か。
 口だけでマットはユーリーに伝える。そうだと答えるようにユーリーが短い咳払いをした。
「これで全員だ」
『了解だ』
 スキンヘッドが頷いた。
『ドッキングの後、そちらの船に仲間が行く。すぐ受け入れられるように用意しておけ。一度交信を終了する』
 プチリと、また一方的に通信がきれた。
 途端、堪え切れなくなったようにユーリーが「ブッゥァッハッハッハ!」と壁を叩いて、盛大に笑った。
「海賊だ。奴らまさに海賊だぞ! みたかよ、いまの。欲望丸出しすぎだろ!! アナログだ。アナログタイプの素敵な海賊さんだ!」
「ユーリー……」
 カムルが少し軽蔑した目をする。無理もないとマットは思った。
「もっと高尚な作戦かと思ったが」
 笑いで呼吸がままらないのだろう。ヒッヒッヒと震えながらユーリーは言う。
「まあいいじゃねえか。あー、楽しい。これはちょっとしたエンターテイメントか? これから暇になったときは、こいつを女装させるのも楽しいかもな。あ、変な意味は無いぞー?」
 自分の言葉に触発され、彼はまた笑う。カムルが明らかに困惑した表情でマットを見た。
「どうしよう、この船長」
「ほっとけ」
「あー、わりぃわりぃ。じゃあ準備するか」
 ひぃはぁーと、ユーリーが呼吸を整える。
 リビングの食台の上には、倉庫から持ち出した軍刀が一振り置いてあった。
 ピピピと通信要求があることを知らせる。海賊船はすぐそこに着ていた。

 エイリアンを拾っちまったんだ。
 海賊の一人は、体を震わせた。
 サーベルを振り回す、長髪の悪魔が居た。悪魔は仲間を切り捨て、銃を奪い、さらに速度を増して他の仲間たちの血を散らす。
 殺されるわけには行かない。銃を構え、悪魔に向ける。しかし引き金を引いた時には、狙いの先に悪魔はいない。鈍く激しい衝撃が彼の腹部を襲った。
「姿を消した木星の英雄。ユーリー・ムスラクか」
 後ろに続くマットは、ユーリーがつくった道を歩き、呟く。
 ユーリーがかつて英雄と呼ばれていたのは知っていたが、まさかここまですさまじいとは。剣鬼という古い言葉が思い浮かぶ。戦場で百人殺したから英雄なのだな、マットはふと思った。英雄と呼ばれていても、ただ腕の良い軍艦乗りに過ぎないだろうと思っていたが、想像をはるかに凌ぐ体捌きだ。
 女王の影武者が命を預けるに値すると、信頼を寄せたのも頷ける。
 狭い廊下の角を曲がると、十メートル先でユーリーが右に左に、あるいは天井を蹴り、壁を駆け抜けて、銃を持つ男たちを切り伏せていく姿が見えた。マットがユーリーとであった頃、日々を腐るようにして過ごしていた男だとはとうてい思えない動きだ。
 マットは持った銃を構え打つ。
 銃弾がユーリーの脇をすり抜け、海賊の肩に命中した。奪った物だがなかなか精度のいい銃だ。マットは感心して、もう一度銃を構える。

 カムルの仕事は船に残り、決して中に海賊を入れないことだ。
 具体的に言うと、操作室に居残って、ハッチの開閉スイッチを「閉」にしておけば良い。
『く、くそったれ! おい女、あいつらは何者だ!』
 スキンヘッドの男が、モニターの一つのなかで狼狽をしている。
 カムルだって知るものか。海賊船に乗り込むなんてどうかしてると思ったが、どうにかしてしまっている二人は何者なのだろう。
 カムルがユーリーに拾われたのは、一年前ほど前。火星の戦災孤児だったカムルは、ストリートでユーリーに出会ったのだ。なぜ自分を拾ったのかと聞いても、ユーリーは気まぐれだと答える。そういえばフーユの話だと、戦時中ユーリーは木星の政府の人間だったらしい。木星と火星は戦時中は敵対していた。どうして火星の孤児を、ユーリーは拾ったのだろう。
「さ、さあ……僕は会って一年しか経ってないし」
『僕?!』
「あ」
 カムルは長髪のかつらをとった。長い髪は邪魔臭いなと思っていたのだ。
「ごめんね。実は男なんです」
『くそったれぇぇ! 罠にはめられた!!』
 べつに何かだましたわけでも計ったわけでもあるまいに。なにからなにまでステレオタイプな海賊だ。カムルは少しだけ、ユーリーの言っていたことに同意できた。
『おうおう、ここが制御室か? 見覚えのあるツルツルてんがいるなぁ』
 モニターの向うで知っている声がした。
「ユーリー」
『聞こえてるなら通信を切』
 銃の音のせいで、途中でユーリーの声が聞こえなくなる。
 彼らが心配で胸が一杯だったが、カムルは回線を閉じた。銃の音、悲鳴。敗戦国火星では散々聞いた音だった。カムルの大嫌いな音。

 制圧は終わった。マットが廊下から銃を向ける部屋の中で、何人かが降参の諸手をあげている。怪我人もすべてこの中に運ばせた。怪我以上の傷を負った者に関しては、知ったことではない。海賊船にあった救命用具は放り込んだが、それ以上のことをする義理はなかった。ユーリーがドアをしめて、外側から鍵をかける。
 あとすべきことは、母艦の武装パスワードを変更するぐらいだろうか。海賊船の操作室で、自分たちに都合のいいようにマットは船の設定を修正する。武器は使えないようにしたほうが平和的だ。
 マットが作業をしている後ろ姿を見ながら、ユーリーが暇そうに呟いた。
「思ったよりも廊下が狭くて助かったな」
 マットは、海賊たちを閉じ込めた部屋の鍵が三時間後に開くように電子ロックをセットする。多少の情けは人のためならずなのだ。
「一度に相手をする人数が少なくて済んだな。しかし広かったらどうするつもりだった」
「広くても、何とかなったんじゃねぇ?」
 楽天的すぎると、マットは肩をすぼめて返す。早くカムルのいる船に戻り、安心させてやろう。マットは、自分たちの船に通信を要求した。
「軍艦がくると思ってたタイミングに海賊船に襲われた。妙な話だよなぁ。あべこべというか」
「俺は、海賊なんてものに出くわしたことに驚いた」
 広い宇宙で海賊と遭遇するのは機雷を踏むより運が悪い。億が一どころか、兆が一の世界の出来事ではないかとユーリーは思う。
 ユーリーは想像する。もしも、ごろつき達に自分たちを襲うようにどうしてだか仕向けた奴がいたら、まあこの出会いも納得できるかもしれない。たとえば、国の人間が軍隊ののかわりに差し向けた追っ手だとか。
 とそこまで考えて、まさかまさかと一笑した。それは「品が無い」にも程がある。そうでなくたって、回りくどすぎるやり方だ。
『ユーリー。何考えてるの?』
 カムルの呼び声がして、はっと我に返る。
「いや考え事をしていてな」
『考え事? ……わかった! 何考えてたか当てようか』
「はあぁ? お前みたいなガキに、俺の高尚な思考が見抜けるかよ」
 マットが頷いた。
「子供に女装させたりするエキセントリックな頭脳は、読みにくそうだな」
『あはは。あれでしょ? このままドッキングし続けて、そっちの船に引っ張ってもらいながら火星に行けば、燃料とかも浮くし、速度も速いし、海賊をそのまま警察に渡せるしでいいことありまくりだよね。海賊さんたちとずっといなきゃいけないけど』
 それは思いつかなかった。ユーリーとマットが顔を合わせた。確かにこの船のほうが足が速い。そしてユーリーたちは、少しでも早くしかるべき施設で解凍してほしい眠り姫を抱えているのだ。一日でも速くたどり着ければ、フーユの体に掛かる負担はずっと少なくて済むだろう。
「お前頭いいな」
 えへへー、とカムルが向こう側で照れて頭をかく。
 ユーリーの脳内で先ほどの想像の続きが展開される。
 回りくどい手しか打てない人も、政府に入る。たとえば実権を持たない女王カサエだ。彼女が、ユーリーたちが海賊を制圧できるところまで見越して、海賊に自分たちを襲わせたのだとしたら?
 今のように結果的にいい事ずくめで終わってはいるが、下手をすれば自分たちは死んでいた。海賊達に逆に制圧されていれば、冷凍室で凍り漬けになっているカサエの『娘』も命はなかっただろう。
「だよなぁ。まっさかぁー」
 声に出して、ユーリーは考えを振り払った。
 あの女王だったら、そんなことをしそうだなと思ってしまったからだ。
「何だ、急に」
「いやいや。俺って人の悪意に敏感すぎるって、フーユに言われたなぁとな。良くない習性だよなぁ」
 もしかしたら、いつぞやのパーティで女王の頼みを断ってしまったことに対する復讐も兼ねていたりして。なんて思ってしまったのだ。


 ―了―


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